歯周病を起こす歯周病菌は、本来健康な口腔内環境でえあれば善玉菌が抑制してくれるので増殖することはありません。ですが犬猫では人のようなこまめな口腔ケアができないことが多いので、どうしても細菌叢のバランスが崩れ歯周病率が高くなってしまいます。
歯周病菌による問題は口腔内にとどまらず、菌が血流に乗って心臓の弁膜症にかかわることも知られています。動物における歯周病の治療には、全身麻酔下での歯石除去や抜歯が必要になることも少なくなく、またそれが1回では終わらないことも多いです。
したがってできるかぎり子犬・子猫の時からケアをする習慣を身につけておくことが望ましいですが、正しい歯磨きはなかなか難しく、遺伝的に歯が揺れてくるのが早い子ではお口を触ることを嫌がるようになり、適切なケアがしづらくなってしまうなどさまざまな問題を抱えています。
そんな中、当院では歯周病菌対策として乳酸菌系サプリメントをいくつか扱っており、粉剤、液剤、ペーストなど飼い主さんの使い勝手や嗜好性などにより使い分けていました。今回はそのラインナップのご紹介と新製品のご案内です。
当院での口腔ケア製品ラインナップ
当院で最も古くからオススメしてきた口腔ケア製剤は株式会社ミネルヴァのオーラルガード®です。乳酸菌とラクトフェリン、卵黄由来のIgYを含み、本来は1日2包飲むサプリですが、歯肉の赤い部分に少量の粉を直接塗布し、残りは冷蔵庫で保管する方法をお勧めしています。
実際に使用すると粘性のあった唾液がサラサラになったり、歯肉の赤味や唾液の悪臭が軽減されました。1包使い切りではないので費用的な負担も軽減されます。
ただこの方法はワンちゃんや猫ちゃんがお口周りを触らせてくれることが前提なので、ご自宅で飼い主さんが行うのは難しいことも。
そこで株式会社メニワンから発売されている、オーラルガードと同様に乳酸菌、ラクトフェリン、卵黄由来IgYを含むペロワン®を利用している方もいらっしゃいます。
ペロワン®も患部に直接塗布できますが、蜂蜜のようなとろみ具合で自力で舐めてもらえるため、飼い主さんが動物のお口を開けなくて済んだり、利用する際のストレスを軽減できます。
お口の健康をサポートするライオンの新製品
そしてこのたびライオンペット株式会社からペットキス® ベッツドクタースペック オーラルケア・サプリメントが登場しました。
オーラルケア・サプリメントは、ハウス食品グループが研究開発した乳酸菌L-137と、殺菌作用のある明日葉抽出物が口腔内の健康をサポートし、衛生面でも優れた与えやすい個包装のペースト状サプリです。
ちなみに明日葉抽出物の殺菌作用で乳酸菌は殺菌されないのか?という素朴な疑問を抱く方もいらっしゃるかもしれませんが、使用されている乳酸菌は死菌製剤なので抗生物質や熱、殺菌成分の影響を受けません。
細菌の温床となる歯周ポケットの形成には歯周病菌が関わっているとされていますが、ヒトでは乳酸菌L-137により歯周病菌が減って、歯周ポケットが浅くなったという報告もあるようです。
近年爆発的な人気のいなばの某オヤツのように、直接舐めてもらうことで動物とのコミュニケーションも図れるだけでなく、口腔ケアという機能性を持たせたサプリなのでただ単にオヤツを与えているという罪悪感も減らせます。
当院では以前よりオヤツの利用には意味を持たせることを推奨しています。外来で問診の際にオヤツを与えていることを隠してしまう飼い主さんがいらっしゃり、実はオヤツをあげるのは悪いこと…と認識している方が少なくありません。
確かにただ喜ぶからというだけで与えている方もいらっしゃるようですが、何かのご褒美にというときであっても、ただただ美味しいオヤツを与えることに罪悪感を感じてしまっているようです。
そこでオヤツとしてサプリメントや栄養補完食としてなんらかの機能をもった製品を利用してもらうと、なんとなく感じている罪悪感を減らせると同時に、日々の動物たちの健康のためにもなるわけです。
ですがお互いに喜んで利用してもらうためには嗜好性が高くなければならないので、機能性がありかつ嗜好性にも気をつかってくれている製品が登場するのは嬉しいなと思います。
【重要】口腔ケアサプリの使い方
これらの製品は飲ませたり食餌にかけていただいても構いませんが、口腔ケアの目的として利用する場合、最大限に効果を発揮するためには乳酸菌やその他の有効成分が患部(歯肉)に長くとどまってもらうことが大切です。
したがって水に溶いて飲ませたり食餌に混ぜないようにするよりは、できるだけ飲食を伴わない時間に患部に「塗る」方法が最も望ましいと考えています。
もちろんお口を触らせてくれない子もいると思いますので、ご自身のワンちゃん猫ちゃんに合わせて利用してください。
口腔ケアにおける乳酸菌の役割は腸と少し違う
前述したようにオーラルケア・サプリメントに含まれている乳酸菌は死菌であり、その他の製剤も死菌を利用しているため、比較的軽度の歯周病または健康な子の歯周病予防や歯周病治療後の再発予防に向いていると思われます。
死菌は口腔内や腸内の細菌叢のうち、善玉菌や日和見菌の餌となるため、もともと持っている自分の菌叢を強化します。したがって既に善玉菌が減ってしまっている重度の口腔内環境ではそれほど効果は期待できないかもしれません。
生菌の場合はその菌が直接細菌叢のバランスを変化させます。ただし生菌は口腔内でも腸内でも長くとどまる(棲みつく)ことはありませんし、熱や抗生物質その他の殺菌成分の影響を受けてしまいます。
また、歯が揺れていたり歯石がひどい場合は外科処置による歯石除去や抗生物質の投与など根本的な治療が必要になります。
さまざまなケースで使い分けを
健康な口腔内環境であれば必ずしも殺菌成分を含む必要はありません。むしろ殺菌成分は善玉菌も減らしてしまうので健康な子が漫然と使うのは必ずしも良いとは言えず、オーラルガード®やペロワン®など殺菌成分は含まない製剤が良いと思います。
殺菌成分を含んでいるものは数日に1回ほかの製剤の合間に利用したり、軽度~中程度の歯周病を抱えたステージからの利用でも良さそうです。
いずれにしても動物では日常的な口腔ケアの難しさから、若い子でも少なからず歯周病を抱えている子が少なくありません。したがってこれらの口腔ケア製品は若い頃からの歯周病予防、適切な口腔処置後の再発予防、麻酔がかけられない高齢動物での利用など、あらゆるステージでの口腔環境をサポートしてくれそうです。
死菌でも生菌でも、殺菌成分があってもなくても、利用しやすいものを選択し継続して利用することが大切です。
保険適応となる製剤
前述した製品は全てサプリメント扱いのため保険適応とはなりません。一方で株式会社住友ファーマアニマルヘルスのインターベリーα®は医薬品のため保険適応となります。
この製品は口内炎治療のための犬用経口インターフェロン製剤として以前から発売されていましたが、このたび猫の口内炎への適応が追加されました。
臨床の現場では犬より猫の方が歯周炎や歯周病に悩まされることが多く、実際には猫ちゃんに利用していた獣医師も多くいたため、待ちに待った承認取得というところでしょうか。
インターフェロン製剤には、主に犬のアトピー性疾患や抗がん作用の目的で利用されるインターフェロンγ、猫のウイルス性疾患(特に口内炎の原因となるカリシウイルス感染症)と犬のパルボウイルス感染症の治療に利用されているネコ型インターフェロン(rFelFN)があります。
これらは注射剤で点眼・点鼻に使用することはあっても経口タイプはありませんでした。インターフェロンにはいくつもの型がありそれぞれ作用の強弱などに違いはありますが、NK細胞やマクロファージなどの免疫細胞を活性化することでウイルス、細菌、腫瘍細胞などの増殖を抑制します。
インターフェリー®は飲ませる方法以外にも、水で溶いて点眼瓶などに入れて患部(歯肉)に直接垂らす使い方ができます。